特別審査員に訊く! ヤマザキコレ先生ロングインタビュー[後編]

現実をくるむ幻想に
たくさんの夢と情熱を込めて

累計450万部を発行し、10月よりTVアニメが放映中の「魔法使いの嫁」。その作者である漫画家・ヤマザキコレ氏に創作の原点や秘訣を伺ってきました!担当編集・新福恭平氏との対談形式で、前後編に分けてお送りいたします。

間に合えばいいや!で出来た「魔法使いの嫁」

現在連載中の「魔法使いの嫁」の発想のきっかけを教えてください。

ヤマザキ:
腕組んでPCの前で、どうしようどうしよう…うーん…ベッドの上で寝転んで、どうしようどうしよう…うーん…アッこうしよう!からですかね。

新福:
それってどういう形で降りてきたんでしょう。チセとエリアスがセットでなのか、バラバラなのか。

ヤマザキ:
ビジュアル上は初めからエリアスもチセ(黒髪でしたけど)も出ていました。そこから話を考えて、つまんないからボツにして、もう一回別の話考えてボツにして、同人誌版なので3稿目であの形になった感じですね。でも、どうやって辿り着いたかは、もう覚えてないですね~。ぶっちゃけ、たった一回だけ、イベント用の話として作ってたので。

新福:
要は「このイベントにさえ、間に合えばいいや!」くらいの気持ちだったと(笑)。

ヤマザキ:
本当にそう(笑)。それに、変に時間掛けても、掛けた分だけアイデアベースでは良くなるわけでもないよと私は思っているので。

新福:
今回、「プロジェクトBIGSHIP」を一つのイベントだと捉えてしまって、「BIGSHIPっていうイベントあるから、そこ合わせで描こう!」くらいが良いってことですよね。

ヤマザキ:
その方が良いと思う。これから作家になるのであれば、数多作る作品の内の一つでしかないし、今の自分の発想を大事にする方が良いと思いますよ。世界の終わりに描きたい絶対の一作である必要はないと思います。

新福:
これでもし望んだ結果が得られずとも、次の扉がないってわけでもないですからね。妙に気負ったりせずにある意味一つのイベント合わせで出してみっかな~で良いということだよね。

ヤマザキ:
そう、何せ締切もあるし!締切って大事なんだよな~。きっと世のどんなすごい文豪もこれがあったから作品を作れたのだと私は勝手に思っている(笑)。

世界観やキャラ作りで意識していることを教えて下さい。

ヤマザキ:
世界観やキャラ作り……人生の中で私がインプットしたものをアウトプットするものだから、意識したことはないのかなぁ。今まで沢山の人に会って、沢山の場所になるだけ行って感じたものが出てきたに過ぎないというか。

新福:
そういう意味では、現在ってなかなか人に会ったり、違う場所に行ったり、インプットが足りない状況だと思うんですけど、現時点でインプットする上で意識してる何かはありますか?

ヤマザキ:
常に誰と喋ってても観察ですね。たくさんの人がいる往来で、人間観察して会話を聞いたりもしますよ。人知れずこっそりとですけど(笑)。私の場合は、何にせよ自分の中だけでは出来てこないかなぁと。キャラ作りについては、必ず人生において何かの「こだわり」を持たせようとは思ってますね。

新福:
ヤマザキさんの場合はキャラ作りにおいて、そのキャラが「何にこだわるか、あるいは固執するか」が奥行きを出すキーの一つになるんですね。

ヤマザキ:
自分が持つ、こだわりの一欠片をキャラに移してあげたりしても良いと思う。そうすると、そのキャラの行動理念がはっきりしてきて、自分がきちんとその子を把握しやすくなるので。

新福:
こだわりもそうですけど、キャラクターの立体感としては、A「だけど」B、という構図を作ってみるのも良いかもしれません。矛盾を孕むと人間らしくなるというか。

ヤマザキ:
そうね、人間って矛盾してるものだから。その作り方もとても大事だと思う。思うけど、私が今そう作れているかはわからないな(笑)。

新福:
やり方の一つとしてってことで(笑)。これが全てじゃないですよ、もちろん!世界観としては、私はインプットした情報を持って、こう思っていてアウトプットするぞ、というところが出てくるとそれが世界観になるのでは…と個人的には思いますね。

ヤマザキ:
しかし、世界観…世界観~~~世界観ってよくわかんないですよね(笑)。だから、この回答が合ってるのかどうか……。

新福:
話す前にきちんと世界観に対する作家と編集の定義を整理しないと危ない言葉だなーと思いますね。コンセンサスが取れないままに、ふわっとしたニュアンスでお互い相談し始めると盛大に事故るというか。

ヤマザキ:
世界観って色んな捉え方ができる言葉だから、編集さんとこっちとですれ違いが起こりやすくておっかないですよね。でもいずれの意味だとしても、難しいです。主張はしないといけないけど、それを押し付け過ぎても理解されないし……。

プロットの段階でキャラの声を辛抱強く聞く。

ネームの際に心掛けていることを教えて下さい。

新福:
さきほどの質問とも関わってきそうですね。

ヤマザキ:
とにかく、ネームの時は演出だけですね。読みやすさやバランス含め、内容はプロット時からほぼそのままに、より楽に、より楽しく読めるように細々気にしてますね…。

新福:
ということは、実際お話作りという意味ではプロットで終わっているということだね。それでは質問を変えて、プロット、お話作りで心掛けてることは何でしょうか。

ヤマザキ:
まず、箇条書きで、作中で絶対やらなきゃいかんこと、出来ればやりたいこと等をひとまず書き出して。そこから絶対を時系列順に並べてみて、その後は聞こえてくる台詞をとりあえずドンドン書き出していきますね。こう…電波を…受信している……的な…?

新福:
電波受信(笑)。 でも、整理方法としてはすごく的確ですよね。要は、マスト・ウォント(must/want)を分けて可視化して…というお話だから、漫画家でなくてもすごく参考になる形だと思う。

ヤマザキ:
テキストで受信したものを吐き出していったところで、いらないところとかをバンバン削っていって。おおよそテキスト量で今はページ数も読めるので、テキスト量換算でさぁどれだけ削るかなとやってますね。それでネームに取り掛かるんですけど、またその段階でもやっぱり誤差は出るので、また削る部分の選定とか推敲をしていく…って感じでしょうか。

新福:
そこで聞きたいんですけど、お話ってどこまででも修正したくならないんですか。ネームという演出作業に入っても、お話である大筋が気になってきちゃうとか。

ヤマザキ:
ならないスね。全体の流れは、プロットの段階でキャラクター達がそれに納得している状態を作った上でのネーム作業なので、その土台を大事にしながら尺に収めていくようなイメージです。なので、いつまでも大筋を修正したいということは、私はないかな。プロットの段階で本当に悩むだけ悩んで時間も使うので。

新福:
プロットの段階で、その作業から意識を切り替えるんですね。

ヤマザキ:
プロットは、「脚本:ヤマザキコレ」の仕事で、その後に出てくる「演出:ヤマザキコレ」は同一人物じゃなくて。前の仕事を弄る権利は演出側にはあまりないというか、何かそういうイメージでしょうか。脚本修正するにしても、キャラ達が実際画面で喋った時に彼らが「ここ違和感あるんだけど」っていう言葉に「言われれば確かに違和感あるかも。はいはーい、変えましょか」って感じです。

新福:
それは、キャラがいつまでも脚本にあれこれ言ってはこないんですか?

ヤマザキ:
今のところはないかなぁ。あったら原稿落としてますしね(笑)。

新福:
確かに(笑)。でも、結構そこで大きく修正したくなって悩む方もいるのかなと。

ヤマザキ:
うーん…そういう時はキャラがただ脚本をやらされてるか、逆にキャラを制御出来てないんじゃないかな。プロットの段階で彼らの声を辛抱強く聞くしかない気がします。あとは、締切という外圧でもって意識をきちんと切り替えるのも商業でやる上では大事ですね。+αで、シンドいものになっても失敗しても、それを世に出す勇気を持つのも大事。

新福:
「未完成の名作より、完成した凡作」ということだね。それはその通りだと思う。悔しくなるものや恥ずかしくなるものでも人様の前に出す勇気を持つ人は常に素晴らしい。

ヤマザキ:
己の中で30%の力だったとしても、期間内で発揮できた力が自分の100%なわけだから。それを認めて前に進む勇気はどうしたって必要だと思う。私だって、毎回苦しい。それに見て欲しいですよ、あの同人誌の恥ずかしさを。あれを人前に出すのは勇気以外に何があるというのか!100%勇気しかない!

新福:
ほぼ下書きの、今はアニメ「魔法使いの嫁」Blu-ray vol.1のアニメイト予約特典で付いてくるアレですね(笑)。

ヤマザキ:
そうだよ(笑)。でも、あの勇気があって今があるわけだから、どんなものであれ、どう反応されるとしても人様に見せていくと良いと思います。私も100%描けたなという原稿は未だにないですし。

新福:
ちなみに、皆さんに買って頂けるレベルには、全てのお話がなっていると思うんですが、「ヤマザキさんの中で」100%に近かった原稿というのは何話になりますか?

ヤマザキ:
第31篇ですかね。このお話は、当時の自分を考えても納得がわりかし出来る内容と作画かなと。まぁあなたは第1篇ですよね(笑)。

新福:
いや第1篇だけとは言わないけれども!でも、1巻が総じてエナジーを感じるなとは思うよ(笑)。今ほどキャラクターも整ってないし、野暮ったいところって結構あるんですけど、それでも「これ描きたかったんだ!」って熱量がすごいなって。

ヤマザキ:
ですよね!私もそう思います…取り戻していきたい…!

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